
Nikonの顕微鏡部門Nikon Instrumentsが運営する動画コンテスト「Nikon Small World in Motion」の2026年の優勝作品について、AIの使用をめぐる指摘が出ています。Nikonは、優勝者から提供された資料を含めて、情報を再審査していると発表しました。
優勝者は、AIを使ったのは後処理の段階だと説明しています。一方で、研究者からは、映像内の構造が生物学的に不自然だという声が上がっています。この記事では、これまでの経緯と、双方の主張を整理します。
この記事のポイント
- 優勝作品は、原発性線毛機能不全症の子供の気道の線毛を、顕微鏡で撮影した動画
- 公開後に、映像内の色付きの構造が、生物学的にありえないという指摘が、研究者から出た
- Nikonは、ブログに「正解データを使わずに学習するタイプのAIモデルを後処理に使った」と追記し、現在は再審査中
- 優勝者は、AIを動画や線毛の動きの生成には使っておらず、再構成したデータの区別と色付けに使ったと説明している
Nikon Small World in Motionと2026年の優勝作品
Nikon Small World in Motionは、顕微鏡で撮影した動画を対象にしたコンテストです。2011年に、50年以上続く写真部門のNikon Small Worldの動画版として始まり、2026年で16回目を迎えました。
Natureによると、9月15日に、シンガポール国立大学の光学エンジニアであるNing Xu氏が、優勝者に選ばれました。発表時は、中国の清華大学の所属として紹介されており、現在はシンガポール国立大学の研究員だと、Nikonは説明しています。
優勝作品は、原発性線毛機能不全症(PCD)という、まれな遺伝性疾患の子供の気道の線毛が、異常に動く様子を捉えた動画です。海外メディアの報道では、回折型の超解像顕微鏡を使い、100倍の対物レンズで撮影されたと伝えられています。
何が問題視されたのか
発表から数日後、顕微鏡の専門家が、SNSで映像の正確さに疑問を示し始めました。フロリダ大学の生体工学研究者であるEdward Phelps氏は、LinkedInで具体的な点を指摘しています。
- 紫色の構造は、ミトコンドリアに似ているが、細胞核と同じ大きさのミトコンドリアが、上皮の下に並ぶ構造は、生物学には存在しない
- 青色の構造は、見た目は細胞核に似ているが、動きが細胞核とは異なる
- 赤色の染色が、何を示しているのかが、分からない
クイーンズランド大学の発生生物学者であるMelanie White氏は、科学的な画像は単なるイラストではなく、データであると述べています。そのうえで、映像が顕微鏡で取得した情報を、どこまで忠実に表しているのかは、はっきりしないとしています。AIのツールが、実際のデータにない構造を、加えてしまった可能性にも、言及しています。
ヴュルツブルク大学で超解像顕微鏡を研究するMarkus Sauer氏は、実験データを可視化するためにAIを使うこと自体が、直ちに問題になるわけではないという立場です。問題になるのは、AIが生成した画像や動画が、実験の結果を誤って伝えたり、誇張したり、改変したりする場合だとしています。
NikonとXu氏の説明
Nikon Instrumentsは、9月22日に、Xu氏の作品を紹介するブログを更新しました。この更新で、正解データを使わずに学習するタイプのAIモデルを、後処理に使ったことが、追記されています。
Xu氏は、LinkedInで、次のように説明しています。
- AIは、実験の動画、線毛、その動きを生成するためには使っていない
- AIは、再構成したグレースケールのデータに、後から適用し、似た形の構造を区別して、色を付けるために使った
- 後処理は、線毛の下の領域の見た目を高めるためで、描かれた構造が何を表すのかについて、解剖学的な主張はしていない
- コンテストは、顕微鏡の美しさを称えるもので、見て楽しめて、科学的にも興味深い仕上がりにしたかった
Nikon Small Worldは、これらの指摘を受けて、初回の審査で提供された情報と、Xu氏が提出した追加資料を、慎重に再審査していると、LinkedInで述べています。Xu氏は、これに協力しており、使用した顕微鏡機器、撮像方法、処理手法についての詳細な技術資料を、提供したということです。Nikonは、コミュニティへの更新を予定していると、述べていました。
海外メディアによると、コンテストの規則では、AIが生成した動画は認められていません。Xu氏は、AIを後処理に使ったことは認めつつ、規則には違反していないという立場です。
経緯のまとめ
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 9月15日 | Xu氏が優勝者として発表される(Nature) |
| 発表の数日後 | 専門家がSNSで、映像の生物学的な正確さに疑問を示す |
| 9月22日 | Nikon Instrumentsが、ブログに「正解データを使わずに学習するタイプのAIモデルを後処理に使った」と追記 |
| その後 | Nikonが、LinkedInで、再審査中であることを説明 |
| 9月30日 | Natureが、この問題を報道 |
編集部コメント
この問題で、まず注目したいのは、AIによる後処理が、科学の映像で、どこまで許されるのかという点です。Sauer氏が述べるように、AIで可視化すること自体が悪いわけではなく、実験データを誤って伝えるかどうかが、分かれ目になります。今回は、色付けや構造の区別という処理が、「見やすさ」のためなのか、「データの表現」を変えてしまうのかが、争点になっています。映像制作者にとっても、AIによる補完、ノイズ除去、色の割り当てなどを使うときに、どこまでを撮影データの延長と考え、どこからを加工として開示するのか、考えるきっかけになる事例です。
もう1つは、コンテスト側の審査と、情報開示の進め方です。処理の内容が、発表時点で十分に示されていたのかどうかは、今回の指摘が出てから、ブログの追記という形で、明らかになりました。Nikonは、現在も再審査を続けており、結果とあわせて、規則の運用がどう整理されるのかが、注目されます。AI技術が広まるなかで、写真や映像のコンテストが、AIの使用をどう扱うべきかという議論は、今後も続くと考えられます。
本記事は、2026年10月上旬時点の情報に基づいています。Nikonの再審査の結果は、確認できていません。
本記事は海外メディアで公開された情報を参考に、日本向けに内容を整理・要約しています。
参考情報:PetaPixel、TechRadar、DIY Photography、Nikon Small World、Nikon Rumors
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