
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は2026年9月27日付(現地時間)で、ライカ(Leica、以下Leica)の経営戦略と成功要因に焦点を当てた記事を公開しました。同記事は、Leicaを「小さく、高価で、主にヨーロッパ製」という独自のビジネスモデルを貫き、困難な市場環境を乗り越えた稀有なヨーロッパ製造業の成功事例として紹介しています。
2004年には倒産寸前の状況にあったLeicaが、いかにして現在の地位を確立したのか。元記事では、デジタル写真に対する当時の懐疑的な見方を覆し、デジタルレンジファインダーM8の投入によって経営の立て直しに成功した経緯が詳しく語られています。
本記事では、このWSJの報道を伝えた海外メディアの記事をもとに、Leicaの経営転換、こだわりの製造プロセス、そしてグローバルなパートナーシップ戦略について掘り下げ、日本の映像制作者やクリエイターの皆様にとって示唆に富む内容を整理してお届けします。
この記事のポイント
- アンドレアス・カウフマン氏の投資とM8投入によるデジタル化が、倒産寸前のLeicaを立て直した。
- レンズ製造からカメラ組み立てまで、主要な工程をヨーロッパ(ドイツとポルトガル)で手作業を交えながら行う高品質な生産体制を維持している。
- 直販チャネルを強化し、ギャラリーを併設することも多い店舗を約120店展開することで、売上の約50%を自社で獲得。
- 中国パートナーとの協業で新しい製品ラインを展開する一方、Leicaのドイツ的アイデンティティの希薄化を懸念する声も一部で上がっている。
- Blackstone保有株の中国投資家への売却をめぐる交渉は終了し、新CEOはビデオ製品や若年層向けの低価格カメラの構想を持つとされている。
Leicaの劇的な復活とデジタル化への転換
2004年、Leicaは倒産寸前の状況にあり、当時の最高責任者はデジタル写真について「一時的なもの」と表現していました。しかし、元教師であるアンドレアス・カウフマン氏が、自身の家族が営むオーストリアの製紙・パルプ・包装材事業で得た資金(元記事は約17億ドルと記載)を元手に、2004年にLeicaへ投資したことで、状況は一変します。ただし、Leicaへの投資額そのものは、元記事には記載がありません。
新経営陣の下、レンジファインダーボディに適合する小型センサーが開発され、2006年にはLeica初のデジタルレンジファインダー「M8」が発表されました。このM8の成功が会社の業績を立て直す転換点となりました。現在販売されているモデルの約5分の4はデジタルカメラですが、フィルムカメラも意図的に簡素化された形で製造が続けられています。
「Made in Europe」へのこだわりと生産体制
Leicaは1925年に最初の民生用カメラを発売してから100年以上が経った現在も、レンズの製造とほとんどのカメラ組み立てをヨーロッパで行っています。具体的には、ドイツのウェツラー工場と、53年前に開設されたより自動化されたポルトガルの工場がその中心です。ポルトガルの人件費はドイツの3分の1強であり、同工場では大型部品や双眼鏡の事前生産が行われています。
ウェツラー工場では、フラッグシップモデルであるM型ボディの生産台数は1日あたり約45台に限定されています。デジタルM11モデルは10,000ドルを超える価格(執筆時点の参考価格で157万5,000円超)、アナログM6モデルは約7,000ドル(執筆時点の参考価格で約110万円)で販売されています。工場は半分がクリーンルーム、半分が工房となっており、技術者が手作業でレンズの研磨、接着、塗装を行う一方で、機械がガラスをレンズへと成形する工程も担っています。
独自の販売戦略と市場での成功
Leicaの売上は約6億5000万ドル(執筆時点の参考価格で約1,024億円)と、Canonと比較すると小さい規模ですが、過去5年間で4回の記録的な売上を達成しています。レトロなデザインは、アナログ回帰の流れの中で若い購入者層を惹きつけています。
カウフマン氏の経営戦略の下、Leicaはディーラーからの流通チャネルを自社に戻し、しばしばギャラリーが併設された店舗を約120店オープンしました。現在、自社チャネルが売上の約50%を占めています。また、Leicaはオークションハウスも運営しており、フランシスコ法王が所有していたM-Aが昨年約750万ドル(執筆時点の参考価格で約11億8,100万円)で落札されたことも報じられています。整備済みのボディも販売されています。
パートナーシップと未来への挑戦
Leicaは新しい製品ラインにおいて中国パートナー企業との協業を進めています。HisenseとはCine 1プロジェクターを、Xiaomiとは約2,000ユーロ(執筆時点の参考価格で約37万円)のLeitzphone(3月に発売)を開発しました。さらに、4月にはGpixelと契約を結び、Leica初となる独自の次世代センサーの開発に着手しています。しかし、一部のファンからは、これらの提携がLeicaのドイツ的アイデンティティを希薄化させる可能性を懸念する声も上がっています。
Blackstoneが保有するLeicaの45%の株式については、中国投資家への売却の可能性が以前から報じられていましたが、関係筋によると、これらの交渉は終了したとのことです。今年4月には、44歳の元コンサルタント、アンドレアス・フォル氏がCEOに就任しました。同氏は、ビデオ製品の拡充や、若い層向けのより手頃な価格帯のカメラについて構想を持っているとされています。
リスクとレジリエンス
元記事では、Leicaが直面するリスクとして、関税(Leicaはトランプ政権時の米国関税を価格に転嫁し、シェアを失うことなく対応しました)、AIによる画像生成、そして米中間の圧力などを挙げています。Leicaはすでに2021年の制裁後、最初の携帯電話パートナーであったHuaweiとの提携を解消しています。カウフマン氏は、Leicaがサプライヤーと市場を多様化しており、1920年代のハイパーインフレを乗り越えた同社は、「2つの超大国に押し潰されるには小さすぎる」と述べています。
総括として、Leicaは技術的な変革期を乗り越え、高級で高い利益率を誇るメーカーへと変貌を遂げました。同社の復活は欧州産業における稀有な成功事例とされていますが、そのニッチ戦略が広範な製造業に適用できるモデルではないかもしれない、とも元記事は指摘しています。
編集部コメント
Leicaが辿ってきた軌跡は、現代の映像機材メーカーにとって、ニッチ市場でのブランド戦略の重要性を示唆しています。デジタル化に出遅れかけた過去から、アンドレアス・カウフマン氏による投資と経営によって、高品質かつ高価格帯を維持しつつ、アナログ回帰の流れも捉えて独自の地位を確立しました。「小さく、高価、ヨーロッパ製」という戦略は、コスト効率を追うのではなく、製品が持つ価値とブランドの物語を重視する層に支持されていると考えられます。
また、流通を自社チャネルへと移し、しばしばギャラリーを併設した店舗を約120店展開している点は、製品の体験の質を重視する姿勢の表れといえます。デジタル時代においても、実物に触れる体験を重視するLeicaの取り組みは、映像機材メーカーにとっても参考になる事例です。
本記事は海外メディアで公開された情報を参考に、日本向けに内容を整理・要約しています。
※掲載画像について
掲載画像はイメージです。実際の製品・仕様・デザインとは異なる場合があります。
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